志摩で愛されてきた「きんこ」
三重県の伊勢・志摩地方で古くから作られてきた干し芋「きんこ」。
干しナマコ「金ん子」に似ているからというのが名前の由来で、漁村ならではの一風変わった呼び名です。
作業場に入ると、さつま芋の皮むきを手伝うスタッフの皆さんが、素敵な笑顔で迎えてくれました。
中には現役の海女さんもいて、70歳を超えた今も潜っているそうです。
「子供の頃は、家で作った『きんこ』をポケットに詰め込んで、海まで遊びに行ったなぁ。」
「きんこ」は志摩でずっと愛されてきた知られざる逸品です。
きんこ芋を全国に届けたい
昭和29年、創業者である上田友治さんが、お土産物やお惣菜を販売する雑貨店を開いたのが、上田商店の始まりでした。
その後、昭和49年に息子の久和さんが2代目店主となりました。「きんこ芋は、他の干し芋にはない魅力が詰まっている」。そう思い立った店主は、車の免許を取った翌日に、四日市の市場まで車を走らせ、飛び込み営業でバイヤーのもとを訪ねました。「確かにこれは美味しい。ある程度の量を作れるようになったら扱ってあげるよ」と言われたそうです。
日持ちがして、ある程度の量を作る。志摩の地方食だった「きんこ芋」を商品化する研究を開始し、「誰もやっていないことだからこそ、自分が成功させたい」という信念により、店主の挑戦が始まります。
上田商店の「きんこ芋」の誕生
干し芋は、その保存性を高めるため水分を抜いてカチカチにするのが一般的です。一方、店主が目指したのは、「お砂糖を使わず、お芋本来の甘みを味わえ、柔らかくしっとりとした食感。そして日持ちがするきんこ芋」。6年もの歳月をかけて、試行錯誤をし、やっとの思いで理想のきんこ芋ができあがります。
店主が採用している「煮切干製法」とは、全国でもほとんど残っていない伝統的な干し芋の製法です。理想の干し芋を作るため、茨城や静岡の作り手を回り、勉強をしたそうです。
大釜で時間をかけて煮たお芋をじっくりと蒸らし、さつまいもの甘みを凝縮。そして引き出した甘みをさらに美味しくさせるのは、こだわりの天日干し。気温と風向きをこまめに確認し、旨みを閉じ込めながらゆっくりとお芋の水分だけを抜いていきます。丁寧な天日干しを繰り返すことで、水分が全体にいきわたり、濃厚な甘みと柔らかくしっとりとした、きんこ芋ができあがりました。
家族一丸となって育むきんこ芋
上田商店のきんこ芋を受け継ぐのは、3代目の圭佑さん。
持ち前のセンスでお父さんから技術を受け継ぎ、いまでは製造の中心を担っています。
商品規格や販売を担当するのは、次女の麻衣さん。
「若い人にもきんこ芋の美味しさを伝えたい」と、パティシエの経験を活かし、きんこ芋のムースプリンや、
お店で大人気のきんこ芋ソフト、ファンが多いチップスなど、様々なスイーツを作っています。
「父を支えた母がいたからこそ、上田商店のきんこ芋ができたんです」と話す麻衣さん。
家族みんなででバトンをつないで作り上げたきんこ芋。
手間と愛情をかけたからこそ作れる美味しさを、志摩からお届けします。
志摩の海女さんのおやつ
三重県の南部に位置する志摩市。漁業の盛んなこの地域には、古くから海女さんや一般家庭でおやつとして食べられてきた干し芋があります。この干し芋は、干しナマコの「金ん子(きんこ)」と形が似ていることから「きんこ」と呼ばれてきました。
漁村ならではの呼び名を持つこの「きんこ」をより多くの方々に食べて欲しいという想いで、「きんこ芋」の商品名で製造しているのが、志摩半島の中央部東端に位置する安乗地区で芋の栽培から自ら取り組んでいる上田商店。国産のさつまいも「ハヤト芋」を使用し、冬の寒風でじっくりと干しあげています。
無添加で製造されるこのきんこ芋は、口にしたときのあまりの甘さに驚きを感じてしまいます。そして芋の食感がしっかりと残るホクホク感も魅力です。
農家パティシエの作るさつまいもスイーツ
お芋をじっくり煮込んで作った芋蜜を使用したふわふわのムースの中に、芋蜜でキャラメリゼした干し芋をたっぷり入れ、芋蜜のキャラメルソースで仕上げています。パティシエとして活躍していた、さつまいも農家の橘さんが、さつまいもの、そして干し芋の魅力を引き出した逸品です。
※こちらのムースプリンに使用する干し芋は、隼人芋もしくはべにはるかのいずれかでお作りします。
- 三重県志摩市の雑貨店であった上田商店では、昭和49年、私の父、久和が店主となり、当時一般家庭で作られていた冬の名産品「きんこ」の商品化にむけて研究を始めました。「きんこ」を志摩地域以外の方にも食べてもらいたい。この思いから、上田商店のきんこ作りがスタートしました。
三重県でも南部に位置する志摩市。上田商店のある安乗地区は、岬特有の寒風が吹きますが気候は冬でも比較的温暖です。この温暖な志摩で、なおかつ水分量の多い「煮切干製法」の干し芋を衛生的にたくさん作るのは想像以上に難しく、度重なる失敗の繰り返しの中で、安定生産が可能になったのは昭和55年、足掛け6年の月日が過ぎていました。
そんな店主の口癖は「日進月歩」。まだまだ現状で満足していません。常に食の安全を、さらにいい商品を作りたいと考えております。(現在当商店では、商品名を「きんこ芋」としております。)
(上田商店 橘麻衣)
伊勢で親しまれてきた干し芋をじっくり煮込んで作った芋蜜を使用したふわふわのムースの中に、芋蜜でキャラメリゼした干し芋をたっぷり入れ、芋蜜のキャラメルソースで仕上げています。