駿河湾の
 小さき実力者たち【静岡県静岡市清水区由比】

おだやかに輝く駿河湾を望む由比名産の
おいしい朝獲れ桜エビやシラス、
宿場町の旧観を残す街道歩きを楽しみます。

「ごはん屋さくら」の桜エビとシラスの二色丼は、ごはんの上に生桜エビ、釜揚げ桜エビ、釜揚げシラスがたっぷり。漁期中(3月中旬〜12月下旬)で入荷のある日なら、生シラスもプラスできる

由比で4代続く老舗のこだわり

東海道本線の由比(ゆい)駅に降り立つと、潮の香がふわりと鼻をくすぐった。駅前の通りに立つゲートを見上げると、港町由比らしく桜エビのオブジェが出迎えてくれる。駿河湾に面した、小さな町をめぐる旅の始まりだ。

全国有数のシラス、桜エビの水揚げ量で知られる由比。どちらも小さなボディながら、その人気はがっちり体形の魚に負けてはいない。むしろ、甘く濃厚な味わいで、全国の人々をとりこにしているのだ。

5月下旬の午前8時。早朝、シラス漁に出た船が次々と由比漁港に戻ってくる。由比のシラス漁は珍しい一艘(いっそう)引きだ。他の漁法に比べて短時間で網を揚げるため、魚の鮮度を落とさずにすむ。漁船から積み下ろされたトレピチのシラスが次々とセリにかけられていく。威勢のよい声が飛び交うなかに、仲買人のプレートを付けた青島商店3代目の青島安志さん、4代目の由樹さんの姿があった。

この日、青島商店がセリ落としたシラスは約200キロ。トラックに積み込んで自社に車を走らせる。案内されたのは思いのほかこぢんまりとした加工場で、青島さん一家と数名のスタッフが、シラスと桜エビの加工、販売を行っている。1912年(大正元)の創業以来、その確かな品質から全国にファンを広げてきた。

2

3

息をつく間もなく、大量の海洋深層水でシラスのぬめりを洗い流す青島さん。釜揚げ機で茹でる直前まで氷水をかけながら、鮮度を保つことも大切だ。兵庫県・赤穂(あこう)の天日塩(てんぴえん)で塩分を調整した湯のなかにシラスを投入。2分ほど茹でた後に引き上げると、透明から白くふっくらとした姿となり、加工場の空気もふくよかな香りに一変した。ひとつまみいただくと、湯気が上がるあつあつのシラスはふわっとした口あたり。ほどよい塩気だからシラス本来のおいしさが強く感じられる。この絶妙な塩加減こそシラスを知りつくした安志さんの経験が成せるワザなのだ。茹で上げたシラスをせいろに広げて水を切り、乾燥機にかける。最後に急速冷凍して完成だ。「うちの味をみなさんに喜んでもらいたい」。青島さんの思いは、誠実な仕事ぶりに表れている。

青島商店が手がけたシラスと桜エビを味わえる店として青島さんに紹介してもらったのが、駅近くの「ごはん屋さくら」だ。生シラスと釜揚げシラス、生桜エビと釜揚げ桜エビがのった丼に、お腹も心も大満足。衣少なめの桜エビのかき揚げは、サクサクの食感で噛むほどに旨味が口に広がっていく。

1

6

5

4

  • ① 朝獲れの生シラス。噛むと味は濃く、甘く、潮の香りが鼻に抜ける
  • ② 熱気に包まれた釜揚げ機周辺。大きな網でかきまぜながらシラスを茹でる
  • ③ 早朝、富士山をバックにシラス漁に向かう漁船
  • ④ 地元では、甘辛く味付けした桜エビやシラスのかき揚げをほぐしておにぎりにする。奥は桜エビのかき揚げ(協力・ごはん屋さくら)
  • ⑤ シラスと桜エビ一筋の青島安志さん。いいシラスが手に入り、満面の笑み
  • ⑥ 茹で上がったシラスをせいろに広げ、小さな熊手でほぐす

旅人を癒やす景色と笑顔

由比は魚介だけでなく、東海道の宿場町としても名を馳せる。かつては参勤交代の大名らが宿泊した由比本陣跡が公園として整備されており、その一画に静岡市東海道広重美術館が立つ。多数所蔵する歌川広重の浮世絵のなかでも見逃せない作品は、この町から見える風景を描いた「由井 薩た嶺(さったみね)」だ。断崖の薩た峠から望む、白雪をかぶった富士山。江戸時代に広重が見た景色が21世紀の今、どのように目に映るのだろうかと、少し離れた峠に足を延ばすことにした。

薩た峠は標高244メートルの薩た山の中腹に位置し、東海道の難所の一つに数えられる。展望台に立つと、濃紺の海の向こうに富士山がどっしりと横たわっていた。海沿いに延びる鉄道や国道を除けば、広重の時代から変わらない見晴らしなのだろう。海風が甘くやさしいミカンの香りを運んでくる。厳しい峠越えのとき、この風景と香りが旅人を癒やしたに違いない。

9

8

薩た峠のすぐ下は、間(あい)の宿(しゅく)として栄えた倉沢地区だ。間の宿とは、宿場町と宿場町との間に設けられた村のこと。海と山に挟まれた街道沿いに、伝統的な格子二階造りの家並みが残る。峠に向かう前に人々がひと息ついた旅籠(はたご)がひしめいていたそうだ。

通りを歩くと、収穫したばかりのビワを軒先で選定しているお宅があった。山の斜面で栽培するビワも由比の特産物だという。「食べていきなさいよ」と差し出してくれる。みずみずしく、さわやかな甘さが口に広がる。ビワをほおばりながら、旅人をもてなしてきた由比の人々の心意気は、今も受け継がれていると確信した。

7

10

11

12

  • ⑦⑧ たっぷり陽を浴びた由比のビワ。ジューシーで、甘味と酸味のバランスが絶妙
  • ⑨ 薩た峠から望む富士山。広重を魅了した風景だ
    ©YOUJIRO ODA/SEBUN PHOTO/amanaimages
  • ⑩ 桜エビの町・由比らしく由比駅前のゲートにも桜エビ
  • ⑪ 由比本陣公園の門をくぐると、静岡市東海道広重美術館のモダンな建物
  • ⑫ 美術館に隣接する東海道由比宿交流館にあった、由比宿を再現したジオラマ

13

東海道由比宿交流館に飾られていた、桜エビの折り紙モビール

  • 案内図 駿河湾の小さき実力者たち
  • アクセス

    東海道新幹線静岡駅で東海道本線に乗り換え、由比駅下車。

  • 観光に関する問い合わせ

    【静岡観光コンベンション協会 清水事務所】
    ☎ 054-388-9181

  • 案内図
  • 青島商店

    ☎ 054-375-2243
    静岡市清水区由比471-17
    時間:8時〜17時 休日:日曜・祝日

  • 静岡市東海道広重美術館(由比本陣公園内)

    ☎ 054-375-4454
    静岡市清水区由比297-1
    時間:9時〜17時(入館は閉館の30分前)
    休日:月曜(祝日の場合は翌平日)、 年末年始
    料金: 一般510円、大学生・高校生300円、中学生・小学生120円、
    未就学児は無料

  • 東海道由比宿交流館(由比本陣公園内)

    ☎ 054-375-5166
    静岡市清水区由比297-1
    時間:9時〜17時
    休日:月曜(祝日の場合は翌平日)、年末年始
    料金:無料

  • 薩た峠展望台

    ☎ 054-385-7730(静岡市清水区役所 蒲原支所)
    静岡市清水区由比西倉澤

  • ごはん屋さくら

    ☎ 054-376-0101 静岡市清水区由比今宿1027-8
    時間:11時〜16時
    *土曜・休日は10時30分〜19時30分
    休日:火曜

編集後記

今回の特集記事は「いいもの探訪」と、東海道新幹線沿線の観光情報を集約したサイト「Japan Highlights Travel」、東海道沿線の良質な情報を提供している雑誌「ひととき」が共同で企画、制作しました。

japan-highlightstravel

※写真・イラストは全てイメージです。

「いいね!」を押していいもの探訪の最新情報をチェック!